2013.2
vol.11
パレイリンピック
日本柔道の不祥事に続いて、今度は義足のメダリストの殺人容疑と話題に事欠かないオリンピックですが、あちこちにオリンピック&パラリンピックの招致ポスターが貼られ、当初少なかった招致賛成派が急増しているといいます。
そこで気になることがひとつ。
どうしてオリンピックとパラリンピックを分けて開催するんでしょうか?
オリンピックの閉会式の興奮が収まりかけた頃にまたパラリンピック、なにか締まらなくないですか。聴覚障害者の競技大会は19世紀末、ろう者のそれは1924年に開催されたといいますから障害者競技の歴史はかなり古いのです。
これらを集めて始めての国際大会が開かれたのが1952年。半世紀以上の歴史を持つことになります。その間、障害者用補助具は格段に進化しました。より早く、より美しく、と作られた特殊軽合金製義足、難視者用望遠レンズ、ロボット並みのパワーハンド、下肢不随者用スピードチェア・・・これらが健常者と障害者の境界を次々取り払っています。
柔道やボクシングは体重別階級制を設けて、様々な体形の人がハンディを感じずに楽しめるようにしました。これを水泳、陸上などにも広げて健常者、障害者の区別なく競えるようなかたちにすることはできないものでしょうか。そして健常者、障害者が開会式と閉会式をいっしょに迎える。
パラリンピック発祥の地、ロンドンでそんな声が聞かれ始めました。下半身不随を意味するパラプレジア(Paraplegia)と健常者のエイブルボディー(Able bodied)を合成してパレイブル、でパレイリンピックというわけです。
vol.10
これでも五輪誘致?
大阪市立桜宮高校バスケットボール部に始まった体罰事件報道が収まりそうにありません。
共同通信が五輪代表監督、強化責任者を対象に行ったスポーツ指導での暴力調査によれば「スポーツ指導で暴力はなくなると思うか」の問いに「なくなるとは思わない」とした人が35人中9人。これだけ報道が続いている最中にも3割近くの指導者が「暴力はなくならない」と断言しているのです。
いじめと体罰そして先頃話題になった女性アイドルの丸刈りお詫び事件・・・。これらは一本の根で地中深く繋がっているように思えてなりません。
日本には成算のないことに向かって努力することを過剰に美化する風潮が昔からあります。耐えて頑張るってそんなに美しいことなんでしょうか。昨今それが一層強まっているように思えてなりません。
丸刈りになったアイドルのグループを作った演出家が「(アイドルグループは)高校野球と同じだ」といっていました。汗と涙の物語を作り出そうとしたのでしょう。五輪誘致に熱心だった前都知事が何かのインタビューで「身体で覚えさせなくては分からないこともある」といっていました。この人、生徒への暴力で逮捕されたこともある、あの戸塚ヨットスクールの校長を支援する会の代表でもあります。
少数者と弱者の立場に寄り添って感じ、考え、作り出すというユニバーサルファッションの出発点とは、およそ相容れない考えです。
柔道女子日本代表に選ばれた選手たちによるJOCへの告発は、久しぶりに強者に立ち向かう弱者の凛とした姿を見せてくれました。これこそ私たちが期待する日本の柔道です。彼女たちの勇気を「成算のないことに向かって努力する」結果にだけはしてはなりません。
スポーツ指導者の3割がなお「暴力は止まらない」とするこの国に果たして五輪誘致の資格があるのでしょうか。
スポーツ界に続く暴力事件は私たちにそれを問いかけています。
vol.9
ウールの着物
学生がひとり、上気した顔で研究室にやってきた。
手にしているのは買ったばかりだという着物。バイトに励んで買ったという2万円の中古着物だ。初デートにこれで臨むのだという。
季節に合わせて生地、柄を選別し、年齢によって着こなしを変える、というファッションが捨ててしまった装いのルールが着物にはある。洋服には無いそんなお堅いルールに惹かれたのだそうだ。
なるほどファッションは、この半世紀、ノーシーズン、ノーエイジ、ノールールを押し進めてきた。戦後50年のファッション史は既存のルール、常識を破ることで作られてきたといってもいい。常識破りの先陣を走っているはずのファッション学生に着物人気がじわり高まっているようなのだ。
京都の織物卸商業組合によれば、70年代をピークに落ち続けてきた着物売り上げが、この5年間はほぼ横ばい。一部に復調の兆しも出ているという。洋服(ファッション)の緩さに厭きて今、和服(着物)の堅さに魅かれる、ということか。
もうひとつ、ファッションが繰り出すシーズントレンド(流行)に若者たちが覚めてきたというデータもある。首都圏に住む20代の若者700人に聞いたトレンド関心度調査(ユニバーサルファッション協会調べ)によればトレンドに合わせたファッションを心がけたいとする人は2割弱。8割近い若者が「トレンドに関心ない」という結果が出た。最新トレンドに興味を失った若者が大正ロマンに憧れる。洗い張りをして何度も再生できるというのも昨今のエコ感覚に合致する。
というわけで、遅ればせながら今年は着物を仕立ててみようか。とはいえ、気になるのが値段。ファストファッションに慣らされた身に、麻や正絹の着物はちょっと、と躊躇っていたら「着物に倣って、あなたも少しはルールをわきまえてくれるのだったら高い買い物ではないかもね」と連れ合い。続けて「もっとも、あなたに絹の着物を着こなせるんだったらの話ですけどね」といつに増して舌鋒鋭い。う~ん、まずはウール着物あたりからいってみようか。
羅(うすもの)をゆるやかに着て崩れざる たかし